「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」
目を引くタイトルのこの本は、10年前の2008年に刊行されてたんですね。
今読んでも、十分勉強になります。
会計が万能ではない事実
”真実を表現した決算書はこの世に存在しない”、衝撃的なフレーズですが、確かによく言い当てているなぁ、と思います。
会計のルールが絶対的な真理を追究するものでなく、恣意性をできるだけ排除するために作られたルールである以上、その会計のルールが導き出した決算書の数値は、真実ではなく要約した近似値にならざるを得ないという結論です。
例えば、収益の認識基準でも、発送基準、引渡基準、検収基準等々複数あり、どれを選択するかは法人の任意です。これらのルールを継続的に適用することによって、恣意性を排除するわけですが、会社の主観が入ることは事実です。
また、これらのルールは継続適用が要件ですが、永久に変更してはいけないわけではありません。状況によって、認められるその変更は、決算書の数値を変貌させるわけです。
資産、負債、収益、費用、それぞれの項目で、一定の様々なルールのもと、それぞれの会社の選択を踏まえ数値化されている決算書。要約した近似値にならざるを得ないわけです。
更に厄介なことに、現実問題として”粉飾”という問題があります。
売上の架空計上、在庫の積み増し、経費の繰り延べ・・・。これらの問題が内包されている可能性を含めて、決算書の数値を丸々”真実”として認識してはいけないことになります。
嘘をつかないキャシュフロー
会計のルールにより作られた決算書は、どうしても会社の主観が入り込みます。
その中で主観が入っても変わらないもの、それがキャッシュ(現金預金)です。
預金残高は変えようがありません。預金残高が増えているのか、減っているのか?
それら増減には必ず理由があり、下記の組み合わせで説明がつきます。
・本業で儲けが出ている(営業キャッシュフローの増加)
・本業で儲けが出ていない(営業キャッシュフローの減少)
・固定資産等を売却した(投資キャッシュフローの増加)
・固定資産等を購入した(投資キャッシュフローの減少)
・資金の調達等を行った(財務キャッシュフローの増加)
・融資の返済等を行った(財務キャッシュフローの減少)
本業で儲けが出ているとは、本業でお金が増えていることです。
利益≠お金の増加ではないので、ベースの利益から非資金項目である減価償却費を足し戻し、運転資本の増加(キャッシュの減少)を控除して計算します。
営業キャッシュフロー=当期利益+減価償却費-運転資本(在庫+売掛金-買掛金)の増加額
運転資本の増加額を控除するのは、売掛金や在庫の増加は利益をプラスにしますが、お金は入ってこず、逆に買掛金の増加は利益をマイナスにしますが、お金が出ていかないためです。利益をベースに上記の調整をすることで、本業でのお金の増加・減少が把握できるわけです。
決算書を見る上で、損益計算書(P/L)よりも貸借対照表(B/S)が重要だと言われるのは、やはりこの現金預金の動きを確認することが、とても大切だからです。
なお、現金預金のうち現金は、しっかり実際の現金在高と合っていなければなりません。
中小企業の決算書には現金が多額に上がり、ダブついているものを見かけます。
これらはたいてい社長への貸付であったり、使途不明金になっているもの(領収書紛失等)ですので、実態がきっちりと会計に反映されていない姿です。
この様な場合には、この現金は無いものと同様ですから、注意しなければなりません。
現実と会計の差異を発見し、現場で確認することが重要
”会計に限界があること”、”キャッシュフローは嘘をつかないこと”を認識した上でやらなければならないことがあります。それは、現実と会計との差異を発見し、その原因を究明することです。
会計により作られた決算書は万能ではありませんが、要約された近似値として会社の姿を現しています。これに、嘘をつかないキャッシュフローを意識することで、大まかに会社が儲ける姿になっているか否かの判断はつくことになります。
そこで、経営者の把握している姿が決算書に現れていれば良いですが、常にそうであるとは限りません。
受注は好調なはずなのに売上が伸びていなかったり、在庫処分をしたはずなのに在庫が減っていなかったり・・・。
しかし、これらの差異が発生するには、それなりの理由があるはずです。
会計をとっかかりにして、これらの原因を究明していく必要があります。
現実と会計の差異の原因が何であるかは、決算書の数字だけを見ていたのでは、当然判明しません。重要なのは、現場に足を運び、「どの様な状況になっているのか」、「想定と違うことが発生していないか」、その原因の証拠を突き止めることです。
原因を突き止めることができれば、自ずと改善の手立ては見えてくるに違いありません。
経営者にとって会計の理解は、とても重要で大切なことです。
それは、会社の姿を認識する道具であるだけでなく、会社の問題点を気づかせてれる役割も併せ持っているからです。
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【編集後記】
この本は小説仕立てで読みやすく、会計の仕組みがスルッと入ってきます。
原価管理のくだりは少々難しく感じるかも知れませんが、会計が経営に必要であることがわかりやすく書かれた良著だと思います。
数字嫌いな経営者の方々、難しい決算書の本で挫折した方々にオススメです。
【昨日の一日一新】
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