所得拡大促進税制、適用企業を目にする機会が増えてきています。
人件費が増加傾向にある企業は、適用を検討してみましょう。
所得拡大促進税制とは
個人所得の拡大を図る観点から、平成25年度から平成29年度までの5年間の時限立法で創設された制度です。
「労働分配を増やして従業員さんの給与が増えている企業には、税制面での優遇がありますよ。経営者の皆さん、従業員さんの給与を上げてくださいね。」といった趣旨の政策です。
デフレ脱却のためには、経済が潤わないといけないわけです。経済が潤うためには、みんながお金を市場で使う必要がありますが、給与が上がらないと財布のひもは固くなります。
企業が給与を上げやすくするために、税制面でのアメの政策を用意したというわけです。
税制の優遇の内容は、一定の給与増加額の10%相当額が法人税、所得税から控除されます。
控除額については限度があり、中小企業の場合は法人税、所得税の20%が限度となります。
適用要件を確認してみよう
まず対象者ですが、青色申告者である法人、個人事業主であることが大前提です。
業種の制限などは特にありません。
そして、当然ですが、適用を受けるための明細書を申告書に添付する必要があります。
次に、所得が拡大しているかの判定として、3つの適用要件があります。
これら3つの適用要件を全て満たす必要があります。
少し細かく見ていきましょう。
1.適用事業年度の給与支給額が、基準事業年度の給与支給額より3%以上増加していること(中小企業の場合)
所得拡大ですので、給与が増加していないといけません。
中小企業の場合は3%以上の増加で要件を満たします。
判定する給与について、「雇用者給与等支給額」と定められています。この「雇用者給与等支給額」とは、国内雇用者(役員やその特殊関係者に支払うものは除きます。)に支払う給与をいいます。給与、賞与などのいわゆる所得税法上の給与所得で、原則として課税所得に該当するものです(※非課税の通勤手当込の計算も一定の場合は認められます)。
退職金は退職所得のため該当しません。
次に、基準事業年度です。
「平成25年4月1日以後に開始する最も古い事業年度の一つ前の事業年度」と定められています。例えば、3月決算法人だと平成25年3月期、個人事業主だと平成25年度になります。
適用事業年度は、今回適用を受けようとする事業年度です。
例えば、3月決算法人だと平成29年3月期、個人事業主だと平成28年度の事業年度で判定することになります。
<例>
・基準事業年度の雇用者給与等支給額 1,000万円
・適用事業年度の雇用者給与等支給額 1,100万円
・増加額 100万円(※)
・判定 100万円 ≧ 30万円(1,000万円×3%) ∴OK
(※)なお、この増加額を雇用者給与等支給増加額といい、最終的な軽減税額を計算する基になります。
(※)平成25年4月1日以降に会社を設立等した場合で、基準事業年度がない場合は、国内雇用者に支払う最初の事業年度の給与等支給額の0.7相当額を、基準年度の雇用者給与等支給額として計算します。
2.適用事業年度の給与支給額が、前事業年度の給与支給額以上であること
これは1.よりも単純です。
適用事業年度の雇用者給与等支給額が前事業年度以上であればOKです。
<例>
・前事業年度の雇用者給与等支給額 1,080万円
・適用事業年度の雇用者給与等支給額 1,100万円
・判定 1,100万円 ≧ 1,080万円 ∴OK
3.継続雇用者の一人あたり平均給与につき、適用事業年度の方が前事業年度よりも上回っていること
この要件が少しややこしいです。
1.2.では総額的に給与の増加の判定をおこなっていましたが、3.では従業員の個別の所得の増加を判定するようなイメージです。実際に個人毎の判定を行わない代わりに、継続雇用者に限定することと、人数割りを行うことにより、形式的に増加しているかの判定を行います。
まず、継続雇用者です。
適用事業年度、前事業年度のどちらでも給与の支給を受けたことがある方です。途中での入社や退社があってもかまいませんが、どちらの年度でも給与の発生が必要です。
つまり、適用事業年度の途中に入社された方や、前事業年度中に退職された方は含まれません。
そして、この継続雇用者は労働保険上の一般被保険者、つまり雇用保険の加入対象者に限定されます。65歳以上の者や1週間の所定労働時間が20時間未満の者は含まれません。
次に、一人あたりの平均給与を算出するために、月別の継続雇用者に対する支給人数をカウントし、年間合計人数を算出します。同一月内に給与と賞与の支給があっても、人数のカウントでは1人とカウントします。継続雇用者の人数をカウントしないといけないので、人数が多い場合には少し手間がかかるかも知れません。
継続雇用者に対する給与の支給額(継続雇用者給与等支給額)をカウントした人数で割ることによって、一人あたりの平均給与(平均給与等支給額)を算出します。
この適用事業年度における平均給与等支給額が、前事業年度における平均給与等支給額を超えていればOKです。
超えていることにより、同一の者の所得が拡大していると考えるわけです。
<例>
・前事業年度における継続雇用者給与等支給額 800万円
・前事業年度の支給対象者のカウント人数 40人
・適用事業年度における継続雇用者給与等支給額 900万円
・適用事業年度の支給対象者のカウント数 42人
・判定 214,285円 > 200,000円 ∴OK
(900万円/42人) (800万円/40人)
税額控除額
上記の様に適用要件を満たせば、税額控除により税額の軽減が行えます。
軽減額は1.で算出した増加額の10%相当額です。
ただし、税額控除には限度額が定められています。
中小企業は、法人税額、所得税額の20%が上限となります。
例えば、税額控除前の算出した法人税額が80万円の場合は、次の様な軽減額になります。
<例>
・雇用者給与等支給増加額 100万円
・計算した控除額 100万円×10%=10万円
・税額控除限度額 80万円×20%=16万円
・判定 10万円 ≦ 16万円 ∴軽減額10万円
税額控除限度額の方が低かった場合は、税額控除限度額が軽減額になります。
この税額控除は、事前申請などの必要はなく適用できる制度です。
また、適用要件を満たさない事業年度があったとしても、翌事業年度は満たす可能性もあります。人件費が増加している場合は、適用の有無を検討してみてください。
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【編集後記】
中小企業の税額控除は、機械等を取得した場合の特別控除とこの所得拡大促進税制が
使いやすいですね。5年間の時限立法である所得拡大促進税制ですが、経済活性化のためにも、延長してほしいものです。
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